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       花の散歩道

 

     花がもつ魅力についてのワンポイント情報♪♪



    花の散歩道     《花の世界》 


[3] 描かれた花たち ①

花が主題となって描かれている絵画は、西洋の油絵では『静物画』、日本の古画では『花鳥画』のジャンルに分類されます。 その両者はそれぞれかなり異なる展開をしてきました。 そこで今回は――作品の紹介とともに――描かれた花たちの軌跡をたどります。

19世紀までの西洋画は、描かれた主題によってジャンルに分類され、そのジャンルごとに明確な階級のようなものがありました。 

・歴史画(宗教・神話・歴史・古典・文学・寓意を主題に描いた絵画)

・肖像画(人物の肖像を描いた絵画)

・風俗画(日常の生活の一場面を描いた絵画)

・風景画(自然の景色や都市景観を描いた絵画)

・動物画(生きた動物を描いた絵画)

・静物画(花・果物・楽器・食器・本などの物全般、死んだ動物、骸骨などを描いた絵画)

 

これらの分類・階級の中で、『歴史画』は最も優れたジャンルで、『静物画』は最も低い位置づけでした。

 

古代ローマの時代から『静物画』は描かれてはいましたが、ジャンルとして本格的に確立していくのは17世紀の時代――オランダで細密に描きこまれた『静物画』がさかんに制作された頃からです。 『静物画』という日本語は、英語のstill life (静止した実物)の翻訳ですが、そもそもこの用語はオランダで1650年頃に表現されたstill even(直訳すれば、動かざる生命)という語に由来します。 このことからオランダこそが『静物画』の故郷ともいわれています。

 

西洋画の『静物画』では、絵に登場する鳥獣魚介や花や果物もまた、命を失ったもの、終えつつあるものとして描かれました。 神話や宗教を描いた絵のなかでの花は、人物の属性を示し、何ごとかを寓意する役割をもっていたようです。 さらに、花は季節感もなく美しく描かれながら、人生のむなしさ、はかなさなどを象徴することもありました。 これにはこの世のむなしさを戒める「ヴァニタス(虚栄、むなしさ)」の意味がほのめかされているのです。 

オランダの『静物画』には「ヴァニタス」を主題としたものが多くみられました。 なかでも死を想起させるものは「メメント・モリ(死を忘れることなかれ)」といわれ、代表的なモチーフには頭がい骨、どくろ、時計、楽器、消えたランプ、書物などがあります。

 

16世紀末から17世紀初めにオランダで活躍した画家ヤン・ブリューゲル(Jan Brueghel,

1568~1625)は、花を主題とした静物画で高い評価をうけました。 微妙な色彩表現を得意とし数多くの花の絵を描いています。

 

左の絵は「壺の中のアイリスの花束」―― チューリップ、ユリ、バラ、スイセン、バイモ、ヒヤシンス、ワスレナグサ、サンシキスミレ、シャクヤクそしてアイリス――、数えきれないほどの色とりどりの花が、季節などにはおかまいなく豪華に表現されています。 その華やかさに思わずみとれてしまうほどですが、絵にこめられた本来の意味は「虚栄、むなしさ」でした。

 

花の『静物画』は17世紀のオランダを中心に発展します。 そのオランダ黄金時代に花のジャンルで活躍した女流画家のひとり――ラッヘル・ライス(Rachel Ruysch, 1664~1750)は、植物図鑑のように細密な花の絵を描きました。 女性らしい感性のなかで、あえて下を向いた花を描くなどの表現から息をのむほどの花の魅力が伝わってきます。 しかし、花の季節感にはこだわらず花を美しく描きそろえているようにも感じさせます。

《ラッヘル・ライス(Rachel Ruysch)》

 このように、この時代までの『静物画』としての花は、純粋に花の美を描くというものではなく、『静物画』としての価値も高くはありませんでした。 

 

ところが19世紀後半になって、『静物画』としての花がみごとに性格を変えてあらわれます。 印象派の画家たち(ルノアール、ゴッホ、モネ、セザンヌほか)が、柔和な筆致や心にくいほどの色遣いで花を純粋に美の対象として描き出したのです。 

当時の人びとにとって生命感あふれるように描かれた花の絵は、ひときわ新鮮にうつったことでしょう。 しだいに画題として人びとに親しまれるようになりました。

左から、Pierre-Auguste Renoir(アネモネ)、Vincent Willem van Gogh(薔薇)、Claude Monet(菊)、Paul Cézanne(オリーブ色の花瓶に活けられた花)、Paul Gauguin(肘掛け椅子のひまわり)

 

印象派の画家たちと同世代のフランスの近代画家、オディロン・ルドン(OdilonRedon,1840~1916)は、印象派の画家たちのように見たままの美しさを感覚的に表現するのではなく、想像力をみがき独自のイメージを創りあげました。 

 

しかし、晩年には印象派の明るい色彩にも魅かれ、好んで夢幻的な花を描きます。 左の絵はルドンが晩年に描いた「野の花」――花を静物としてあつかった西洋美術の伝統をこえて、生命の不思議そのものを語りかけているようです。